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エミール・ザトペック [走る人]

※「走る人」というカテゴリーを追加しました。

最初はエミール・ザトペック。
『BORN TO RUN』を読んで初めて知った人物。
「人間機関車」という言葉は知っていたけど、この人のことを言っているとは知らなかった。
ヘルシンキオリンピックで5000m、1万m、マラソンの長距離走3種目で金メダルを獲得し、
インターバルトレーニングを広めた人物としても有名らしい。

『BORN TO RUN』に紹介されていた2つのエピソードが印象的だった。

1つ目は、3種目で金メダルを獲ったヘルシンキオリンピックでのお話。
すでに5000m、1万mでの金メダルを獲得していたが、
ザトペックはマラソンは初挑戦。
その日は暑かったため、当時の世界記録保持者の英国のジム・ピーターズは、
暑さを利用してザトペックを苦しめようとハイペースで飛ばした。
こんな猛ペースを維持できる者がいるのだろうかと疑問に思ったザトペックは、
ピーターズの横に並んでこう聞いた。
「これが初マラソンなんだ。ちょっと速すぎないかな?」
それに対しピーターズは「遅すぎる」と答えた。
ザトペックの闘志をくじくはずだったが、
ザトペックはピーターズの言葉を信じ「そうか。どうも」と猛然と飛び出したという。
そして3つ目のオリンピック記録でゴールした。

思わず笑ってしまったが、
もうひとつのエピソードは感動的だ。

ロン・クラークというオーストラリアの選手(800mから1万mで19の記録を破った)は、
大一番で勝つことが出来ず「息切れ男」と揶揄されていたらしい。
68年のメキシコオリンピック1万m決勝では高山病に倒れた。
故国で罵声を浴びることを予想し帰国を遅らせてプラハに立ち寄り、
ザトペックを表敬訪問した。
その帰り際、クラークは自分のスーツケースにザトペックが何かをしのばせるのに目をとめた。
プラハの春で、
ソ連に同調してスポーツ大使を務めるか、
ウラン鉱山のトイレ掃除をするか選択を迫られ、
トイレ掃除を選んだザトペックは自由を制限されていた。
「彼のために外の世界へメッセージを運ぶのだと考え、飛行機が離れるまではあえて、
包みを開けなかった」とクラークはのちに語っている。
「きみにはこれがふさわしい」と別れ際にザトペックはクラークに、
表彰台風の抱擁をしてくれた。
後にその言葉は抱擁のことを言っていたのではないと気付く。
スーツケースにしのばせたのは外の世界へのメッセージではなく、
ヘルシンキオリンピックで獲得した1万mの金メダルだった。

他にほとんど失ったような状況で大切なメダルを自分の記録を破った男に送る。
何という凄い優しさ、思いやり。
一気に好きになってしまった。

『BORN TO RUN』では走ることと愛することは似ているのではないか、と言っている。
アメリカ人に愛を説かれると眉唾で警戒してしまいがちな自分でも、
何故か素直にそう思えるのが不思議。

そんなエミール・ザトペックが尊敬するランナーが、
何と日本人の村社講平(むらこそ こうへい)。
ベルリンオリンピック5000m・1万mで4位入賞し、
そのレースっぷりが駆け引きなしの真っ向勝負だったのが、
少年だったザトペックを感動させたらしい。
だからこその1つ目のエピソードにつながるのかなぁと勝手に想像してしまった。

意外なところで日本人とつながっていて嬉しい。
実に尊敬すべき人物だと思う。
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